IF HEMINGWAY WROTE JAVASCRIPT
created: 2021-09-22
吉田武先生の素数夜曲と並び、最も好きな技術書がこれである。
ヘミングウェイやシェイクスピア、コナン・ドイルが JavaScript を使ってフィボナッチ数列や階乗計算を書いたらどうなるかをシミュレーションしてみようというこの本は、その趣旨としては 一時期はやった文豪文体模写系と近いが、間口をグッと狭めた分、その深さと面白さは桁違いである。
自然言語の使い手を自然言語でまねるのは、表面的には対して難しくない。読み手としても、原作者の文章をちょっと読めばすぐ、あーこういう感じだよね、と共感できる。
プログラミング言語の使い手やそのスタイル、アーキテクチャをもじるのは、それと比べればだいぶ難しいが、これもある程度プログラミングに習熟していれば無理ではないし、読み手にとってもそうだろう。(これとか)
しかし、自然言語の使い手のスタイルを、プログラミング言語のそれに翻訳するとなると、その難易度は段違いにあがる。まず、自然言語の使い手のスタイルによく習熟していなければならない。また、計算可能性こそをその本質とするプログラミング言語において、書き下した言霊が実行可能であるように、プログラミング言語、この場合では JavaScript の仕様についての深い理解も必要である。その両者を非常に高いレベルで有している筆者の筆力には驚嘆するが、一方でこの本の対象読者の狭さを考えると、この本が商業出版されたことがさらなる驚きである。出版社はえらい。
この本を読むと、プログラムはコンピュータにとって計算可能であることが最重要だが、しかし読み手に対して実に豊かな意味を含んだメッセージを伝えうるものだということを思い知る。プログラマーはまさしく、この電脳時代の詩人なのだ。